株式会社waja株式会社waja

キャプテンコージの世界一周旅日記  >  旅の神様【後編】

キャプテンコージの世界一周旅日記

旅の神様【後編】

チェコ プラハ

地図パブを出たときはもう暗くなっていたので、酔い覚ましにプラハ城まで散歩した。昼間は観光客でいっぱいのプラハ城も、夜になるとほとんど人気はない。そして、ライトアップされたその城は、それはもう美しいなんてものではなかった。カレル橋も物売りや大道芸人ももうおらず、ひっそりと静まり返っていて素晴らしかった。気分がよくなった俺は、めずらしくレストランに一人入り、ボヘミアン料理のコースを食べた。

ホステルに戻って例のごとくバーに行くと、やっぱり例のごとく既に盛り上がっていた。まったくこのホステルは凄い飲み宿だ。ニックが俺を見つけて呼んだので、彼のいるテーブルで飲み始めた。

ニックの他には、前日テーブルの上で踊っていたスコッチ、スウェーデン人の女の子、スイス人とカナダ人のカップルがいた。このカップルはベルリンのユースでも見かけた。黒人のスイス人の男は格好よく、白人のカナディアンの子もかわいかったので目立つカップルだった。するとその女の子が「ベルリンで一緒だったね」と言ってきた。「そうだったね」と答えると、男の方が「実はお前が読んでいた本がずっと気になってたんだよね。サムライの本でしょ?」と言ってきた。「なんだよ、だったら話しかけてくれればよかったのに!」

俺はベルリンではほとんど友達ができなかったので、宿では一人寂しく読書をして過ごしていたのだ。スウェーデン人の女の子は俺とアムスのユースで一緒だったらしい。やっぱり東洋人というのは言葉の壁もあるし、彼らとしても興味があってもなかなか話しかけづらいのだろう。それとも俺の人相が悪いのか?

写真奥のテーブルでは同じドミの奴らが飲んでいた。ニックがそっちのテーブルに移ってから、異常な盛り上がりを見せていた。しばらくしてニックが腹をかかえて笑いながら戻ってきて、盛り上がりの訳を説明してくれた。アメリカ人のケイティがフランス人のクリスのことを気に入ってしまい、二人がラブラブになったようなのだ。だけどケイティはフランス語を話せないし、クリスは英語が下手なので、ニックや周りの奴らがおもしろおかしく通訳して盛り上がっていたらしい。

ケイティは40過ぎのおばさんが無理に若作りをして、ビジュアル系バンドのおっかけを未だ続けてますといった感じの子。背が低くて太っていて髪はチリチリパーマ。あるとき俺の横で豪快にスカートの中からぶっとい足を出し、膝まである長い靴下を履いた後にまた膝まである編み上げのブーツを履きながら、「まったく寒くていやんなっちゃうわよねー」とだみ声で言っていた。はっきり言って、強烈なキャラだ。

クリスはいつも一緒のフランス三人組の一人。この三人はどこに行くにも常にくっついていて、誰かと話すときにはもっぱら英語の得意なダビドが話し、他の二人は斜め後ろにぴたりと待機している。クリスは高嶋政伸がさらにびっくりしたときのような顔をして話す。いわゆる天然系で、何かちょろっと言う度に他のフランス人達に笑いものにされていた。それでもびっくり顔をちょっと照れ臭そうにしながらニコニコしている。

そんな二人がラブラブ?俺には想像もつかなかった。ケイティがバーから部屋に戻るとき、ニックに向かって「もー、皆の前で恥ずかしい思いをさせてー、許さないからね!」と嬉しそうにだみ声で言った。そのかわいらしさがまた少し気持ち悪かった。

俺が部屋に戻って寝ようとしているところに、クリスが一人で現れた。フランス三人組はクラブに行くと言っていたはずなのに。ま、まさか???真っ暗な部屋の中、周りはすっかり眠っている様子で、どこかからか軽いいびきも聞こえてくる。

その中で、クリスの影がケイティのベッドへと向かった。なにやらコソコソと二人が話している。俺は聞かないように毛布をかぶって必死に眠ろうとするのだが、逆に頭はどんどん冴えてきて、二人の話し声がはっきりと聞こえてきた。クリスが「あいらぶゆーえぶりしーんぐ」と言えば、ケイティが「じゅてーむぼくぅー」と答える。
所々「何?もう一度言って?」「ごめん、分からない」などとなかなか会話はスムーズには行かないが、二人の距離は次第に縮まっていく。

写真そのうち、小さく「ちゅ」「ちゅ」と聞こえてきた。おいおい、勘弁してくれよ。始めのうちは唇を重ねるだけの音だったのが、突然強烈に舌を絡める音になった。こっちはもう吐きそうだ。するとクリスがケイティのベッドに入る音がしてきて、キスの音もさらに激しくなり、何かをまさぐっている音やかすかな吐息までもが聞こえてきた。まじで勘弁してくれ。そして、「ズィジジジィィ・・」とジッパーを下げる音。もうお願いだから止めてください!俺は毛布の中で苦しんでいた。

するとケイティが「ここじゃ出来ないわ」と言い出した。そうだ、ここでは出来ない!だがクリスはただ単に断られたのかと思ったらしく、「どうして?」と言いながらまた襲いかかる。「ちょっと待って、あなた先に行ってて」「え?どういうこと?」「外に行きましょう。あなた先に出て。ここじゃダメよ」「どうしてダメなの?僕は君とこうしていたいんだよぉー」あー、もうじれったい!俺が取り仕切ったろか!その後も「行って」「どうして?」のやりとりがしばらく繰り返され、その間にまた濃厚な音がする。どうやらそのうちケイティの方は興醒めしてしまったのか、もうおとなしく寝ましょうということになったらしい。

クリスはさらにしばらく粘ったが、結局すごすごと自分のベッドに帰っていった。はー、これでようやく眠れるぜと思った矢先、突然もの凄い大音量のいびきが聞こえてきた。びっくりして音の方を向くと、ケイティだった。クリスの影も「まじで?」といった感じでケイティの方を覗いている。さすがにこれでクリスも冷めただろう。

気持ち悪い思いもしたが、プラハでは楽しい思い出がいろいろとできた。俺のアドレス帳も一気にたくさん埋まった。ベルリンではほとんど誰とも口を利かずに一人で過ごし、寂しさのあまりにまた「どうして一人旅なんかしてるんだろう」などと考えたりもした。でも不思議なことに、いつもそういう気持ちになった後に移動した次の街では、素敵な出会いが待っていたりする。まるで旅の神様にもてあそばれているように感じたりもする。

だが、だからこそ、やっぱり旅はやめられないんだな。