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キャプテンコージの世界一周旅日記

日本を愛するペルー人

ペルー ナスカ

地図ナスカのネットカフェにこもって地上絵のことを調べていたとき、一人の若い男が話しかけてきた。「トモダチ!トモダチ!」どうせまた何か企んでいるろくでもない奴だろう。暇だったら相手をしてもいいが、今は調査に忙しい。軽く無視を決め込んだ。

「ワタシノナマエワリッキーデス アナタノナマエワ?」

日本人をカモろうとしている奴には、基本的な日本語くらいは話す奴もいる。

「ワタシワニホンゴヲベンキョウシタイ オシエテクダサイ」

まあこれもトルコあたりではよくあるパターンだった。

だがこいつはそういう奴らとは少し違った感じだった。一見いかにも今風の若い男といった感じなのだが、すれた様子は全くなく、純粋な目をしている。あまりこういう感じの顔つきで悪い奴はいない。俺はまだ疑いながら相手をした。

「どうして日本語を勉強したいの?」
「日本が大好きだからさ」
「なんで?」
「なんでかは自分でも分からないよ。でも気づいたら日本のことがすごく好きになっていたんだ」

リッキーの知りたい日本語のフレーズなどを教えてあげた後とりとめもない話をしていると、「見せたいものがあるから俺の家に来ないか?」と誘ってきた。最も危険なパターンだ。いつもなら絶対断るところだが、俺は家に行くことにした。

写真アジアや南米で多くの日本人旅行者が色々な被害にあっている(=多くの悪い奴らが日本人をカモにしようとしている)中、なかなか現地の人間と友達になるのは難しいし勇気のいることだが、それがなかったら旅の楽しみが半減する。相手が信用できる人間かどうか、これは相手の目とアプローチで大体分かる。(たまにそれが外れて痛い目にあうこともあるが)とにかく俺はリッキーに付いて行った。

家に向かう途中で会う友達にはことごとく「日本人の友達のコージだ」と誇らしげに紹介する。「こいつは○○○っていう超アホなオカマだよ」と俺にもその友達を紹介する。皆気さくでいい奴ばかりだった。現地の友達ができると、それまで悪い奴にしか見えなかった他の奴らまで皆いい奴に見えてくるから不思議だ。実際奴らにとっても“カモ”だと思っていた外国人が自分の友達の友達となると“アミーゴ”になってしまうのかもしれない。

リッキーの家はナスカの街外れ、道路もなくただ砂の地面の上に家が何軒か建っているだけの所だった。母親と二人暮らしのその家のリビングのテーブルには、日本語の辞書や勉強用のノートが積まれていた。早速リッキーが自分の部屋から持って来たのは、秘蔵の日本コレクションだった。アニメ“時空転抄ナスカ”のビデオ、古いヤングマガジン、武蔵野線の時刻表、何かの折込チラシなどだ。「俺は日本の漫画や文字が大好きなんだ」と言う。リッキーにとっては時刻表の駅名や広告の文字も格好良くてたまらないらしい。

「もっと好きなのは日本の言葉だよ。日本の歌なんて最高だ。昔は一つテープを持っていたんだけど、前の彼女がそれを持っていったままなんだ。まじで許せねー。ファック!ビッチ!」本当にそのテープは宝物だったんだろう。思い出して本気でキレていた。

「日本人は感謝の気持ちをずっと忘れないんでしょ?」
「どういうこと?」
「例えば道で車に轢かれそうなところを一緒にいた友達が助けてくれたら、そのことは一生忘れないんでしょ?」

きっと義理と人情の話を誰かに聞いたんだろう。

「あ、ああ、そうだな。日本にはそういう気持ちを大切にする文化があるね」
「そういう所がすっげーいいんだよ!ペルーは違う。感謝の気持ちなんてしばらくしたら皆忘れちゃうよ。俺はそうはなりたくないんだ」

「俺の夢はね、日本に行くことなんだ。旅行でも仕事でもなんでもいい。とにかくいつか日本に行ってみたい」
「リッキーだったら大丈夫だよ。日本で働いているペルー人もたくさんいるし」
「ほんと?!じゃあ俺も行けるかな!日本に住んだら、夜はディスコに踊りに行くんだ。周りでは日本人が日本語を話していて、日本の音楽がかかってる。超クールだぜぇ。。。」

もうほとんど恍惚の表情をして想像している。

とにかくリッキーには日本人、日本の文化、日本の全てが夢の世界で、強烈な憧れなのだ。その時俺は、リッキーが日本に来たときに幻滅させちゃいけないなと、妙な使命感を抱いた。日本の美学や文化は守らなくてはならない!と。

俺が常に持ち歩いているものの一つに、英語-スペイン語のポケット辞書がある。キトの古本屋で買ったものだ。大した語彙数もないのだが、程良い大きさなのでいつもバッグに入れていた。リッキーがそれを自分の日本語-スペイン語の何万語も載っている立派な辞書と交換しないかと言ってきた。

リッキーは宿や旅行代理店の客引きをして稼ぎながら、ツアーガイドになるためにツーリズムの学校に通っているという。そしてリッキーの英語はかなりひどい。日本語をいつか話せるようになりたいのだが、まず今の自分には英語が必要なんだと言う。確かにその通りだし、分厚い日西辞書は平仮名もまだ読めないリッキーには使いこなせるものではない。だが、俺の英西辞書はどこででも売っている安物で、リッキーのはなかなか手に入れることはできない高価なものだ。実際俺のは定価6.5ドル、リッキーのは3800円と書かれていた。スペイン語の勉強をしている俺にとって、正直その辞書はめちゃめちゃ欲しかったのだが、とても悪くて交換なんてできない。俺は俺の安物の辞書だけリッキーにあげることにした。

リッキーはとても喜んでくれた。そして俺にその辞書の表紙の裏ページにメッセージを書いてくれと言う。スペイン語で書こうとしたら、日本語で書いてくれと頼まれた。勉強していつかそのメッセージを読めるようになるからと。その時の楽しみに、意味は教えてくれなくてもいいと言っていた。

“リッキー、お前の夢が叶うことを本気で願ってるぜ。次は必ず日本で会おう!光司より”

ちょっと、クサすぎたかな。。。でもいつか本当にリッキーとは日本で会えるような気がしてならない。