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キャプテンコージの世界一周旅日記

奇跡の海

地図トルコ オリンポス、フェティエ

“BACKPACKERS BOAT TRIP TO FETHIYE FOR 2 NIGHTS 3 DAYS”

ある日レストランの外に出ていたこの看板に、ジェームス&スカイと俺の目が止まった。「地中海のボートトリップ?」「フェティエってあのリゾート地だよね?」「めちゃめちゃ楽しそうじゃない?」俺達はその場で申し込みをした。

翌朝、参加者達が顔を合わせた。6組のカップル、3人の女の子グループ、俺の合計16人。俺の他に1人者がいないのが少し残念だったが、感じの良い連中ばかりだった。誰もがこれから始まる船の旅にわくわくしている様子だった。

港で俺達を待っていたのは、予想以上に立派な船だった。それを見た俺達の中から歓声が上がった。3日分の食料と水、酒を積み、全員が乗り込んだところで船は出港した。

写真船は真夏の地中海を進む。空は快晴で、海はどこまでも青く、風は気持ち良かった。途中綺麗な入り江に入っては船を停めて海に飛び込み、蝶の集まる谷では上陸して散策をした。食事は船長のムスタファが作ってくれた。毎回驚くほど素晴らしいトルコ料理だった。食事が終わるとまた船は走り出し、俺達はデッキに出てビールを飲んだり、ゲームをしたり、昼寝をして過ごした。

初日の夜は食事の後に停泊していた港町に繰り出した。小さなリゾート地だったのだがあまり観光客はおらず、街のどこに行っても同じ船のメンバーがいた。4,5人で飲んでいると、いつの間にかほとんどのメンバーがそのバーに集合していた。近くにディスコがあると言うので皆で移動した。海を臨む丘の上にある野外ディスコだった。散々飲んで踊って船へと帰った。

写真次の日も素晴らしい1日だった。空も海も食事も仲間も最高だった。こんな日々がずっと続くような気さえした。だがたった3日間の船旅だ。その日の夜が俺達の最後の晩餐となり、デッキでパーティを開いた。メンバーの多くはイギリス人とオーストラリア人だ。もの凄いピッチでビールが空いていった。

いつの間にか眠ってしまっていた。目を覚まして周りを見ると、メンバーの半分くらいはその場で眠っていた。残りはキャビンや反対側のデッキで寝ているのだろう。随分と冷える夜だったので、俺は寝袋に入って寝ようと思って立ち上がった。すると、後ろから「コージィ」と呼ぶ声が。アンドリューだった。

「まだ起きてたの?」
「ああ、飲み足りなくてな。一緒に飲もうぜ」

写真アンドリューは体も声も大きくて豪快な南アフリカ人だ。博学で行動力もある彼は、リーダー的な存在でもあった。俺は正直早く寝袋の中に入りたかったのだが、少しだけ彼に付き合うことにした。しばらく一緒に飲んでいると、アンドリューが「すげーもん見せてやろうか?」と言って立ち上がった。

アンドリューはそのままデッキの端まで行くと、手すりを越えていきなり向こう側に落ちた。海だ。俺は慌ててデッキの端まで行き、5mほど下にある海面を見下ろした。間もなくアンドリューが浮き上がってきた。そして唖然として船の上から自分を見下ろしている俺に向かってこう叫んだ。

「コージー!カッモーン!!」

・・・。カモンじゃねーよ。一体こんな寒い夜に海に飛び込むなんて、気でも狂ったのか?嫌だと俺が言うと、また「凄いものを見せてやるからとにかく来い」と言う。

ただでさえ酔ったまま眠って体が冷えているのに、海なんかに入ったら風邪を引いてしまう。だが、下からアンドリューは「カッモーン!カッモーン!」と叫んでいる。ふと、そんなバカをやってみるのも悪くないなという気持ちも出てきた。

よし、こうなったらもうヤケクソだ。なんだか分からないが行ってみるか。そう心を決めた俺は手すりに上り、思い切って頭から真っ黒な海へと飛び込んだ。かなりの高さから飛び込んだため、俺の体は海中に勢いよく潜っていく。そしてそこは、、、

写真そこは、光の世界だった。小さく輝く無数の光が、俺の体を包んでいた。潜るスピードが次第に遅くなり、そのまま俺の体は向きを変えて水面へ向かって上がっていく。光の群れは少しずつ弱まりながらも、ずっと俺の体を包んだまま付いて来る。水面へ出ても、水を掻いている俺の両手の周りにまだわずかな光が残っている。見ると、アンドリューが笑っていた。

「な?凄いだろ?」
「これ、一体どういうこと!?」
「次はまた俺が飛び込むから、コージは水の中に潜って見てろよ」

そう言うとアンドリューは船に上がり、今度はデッキの屋根の一番高いところまでよじ上って、そこから俺に潜るよう合図した。言われた通り海中で待っていると、少し離れたところにアンドリューが飛び込んできた。その瞬間、闇の中で光の粒がアンドリューの体を包み、巨大な光の塊となって潜って行った。

真夏の地中海で大量に発生するプランクトンは光を放つ性質があり、それが物の動きに刺激を受けて光っているのではないかというのがアンドリューの説だった。だがそんなことはどうでもよかった。俺達は他の皆にもこれを見せようということになった。

全員を叩き起こした。夜中にずぶ濡れの男2人が眠っている人間に海に飛び込めと触れ回る。皆始めはまともに取り合ってくれなかった。だが1人、2人と飛び込んだ奴等が海で感激しながら絶叫しているのを見て、次々と飛び込んでいき、ついには全員が海に入った。真夜中の海に、いくつもの光の群れが生まれた。そのまま俺達は随分と長い間、奇跡の海を楽しんだ。アンドリューは何度も俺達のリクエストを受けて、屋根の上から飛び込んでいた。

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翌朝、目が覚めると俺は風邪を引いていた。

最後の晩餐とは言いながら、結局メンバーの殆どはフェティエでも同じ宿に滞在し、毎晩連れ立って飲みに出かけていた。俺は安静していようと思うのだが、飲めば治ると言われてやはり一緒に飲みに行っていた。

そして案の定、フェティエにいる間中、風邪は一向に治らなかった。

写真