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キャプテンコージの世界一周旅日記

サンブラス【後編】

地図パナマ サンブラス諸島

しばらくすると一艘のカヌーがやって来て、男が俺のところに近寄って来た。笑顔で奇怪な言葉を話している。クナ族の言葉なのだろう。何を言っているのかは分からないのだが、とりあえず空港カウンターのおじさんにもらった紙を差し出すと、「オーケーオーケー!」と言って俺をカヌーに乗せた。

写真カヌーはカリブの海を進む。周りには無数の島が点在している。草だけが生えている島、家が1軒建っているだけの島(島の中にポツリと建っているのではなく、海の中にポツリと1軒の家が浮いているのだ!)、数軒の家が建っている島、集落と言えるくらいの規模の島など様々だ。

少し大きめの島にカヌーは着いた。そのすぐ目の前の建物が、俺が泊まる宿らしい。まず宿の主人のところに案内され、挨拶をした。主人が家族やそこで働いている人達を俺に紹介する。皆、少し照れた笑顔で迎えてくれた。

写真島ではその宿だけが2階建てだったため、2階からは島の全てを見渡すことができた。藁葺き屋根の家が30軒ほどあるだろうか。近くの家の庭から煙がもくもくと上がっている。豚のブヒブヒ鳴く声や、鶏のコッココッコと言う声が聞こえる。道端では裸の子供達が遊んでいる。まるでタイムスリップをしたかのような世界だ。

島を散歩すると、子供達が1人2人と近寄って来た。俺が「オラ」と挨拶すると、子供達も元気に「オラ!」と言って笑う。すると遠巻きに見ていた子供達も集まって来る。10人程の子供達が俺を囲み、俺の顔を覗き込みながら歩く。目が合うと、「オラ!」と言って笑う。どうやら「オラ」が彼等の知っている唯一のスペイン語(外国語)らしい。「オラ」を連呼しながら俺達は歩いた。

俺の右側にいた2人の子供はそれぞれ俺の右手を握り、左側の2人は俺の左手を握り、俺は4人の子供達と手を繋ぎながら歩くような格好になった。俺はあてもなくブラブラと歩いていたのだが、彼等はそれぞれ俺をどこかに連れて行きたいらしく、たまに俺の引っ張り合いになる。そこで喧嘩が始まる。すると他の子供が俺の手を引いてまたどこかに連れて行く。

写真俺の前で1人の子供が逆立ちをする。すると次々と他の子供達も逆立ちをする。皆口々に「こっちを見て!」と言いながら。宿の2階から島の様子を眺めていた限りでは、逆立ち相撲(逆立ちをしながら足で押し合う相撲)が唯一の遊びのようだった。だからどの子供も逆立ちがとてもうまい。まだ幼い子供は壁に足をもたれて逆立ちをする。彼等は何度も何度も逆立ちを繰り返す。

クナ族はとても体が小さく、成人の男でも平均160cmには届かない。女の人は140cmくらいだろうか。当然子供も小さい。そんな島で、180cmを越える俺が小さな子供達と一緒に歩く姿はなんとも奇妙な光景だっただろう。俺は島でただ1人の外国人であり、ダントツの巨人でもあった。

食事は、宿の主人の娘さんが作ってくれた。毎回ご飯に煮豆、甘い揚げバナナという典型的なカリブ料理に加え、魚を調理したものが出た。この魚が新鮮でうまかった。まさかこんな島でこれほどのものが食えるとは思わなかった。俺がうまいうまいと言って食べると、彼女はとても喜んでくれた。

写真宿のトイレは、海に突き出た板に便器を当て込んだものだった。当然のことながら下は海だ。便器の中に透き通るエメラルドグリーンの海があり、色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。そこで用を足すのはいつも気が引ける思いがした。

夜、星空の下にテーブルを出し、男が4人集まって何かに夢中になっていた。近づいて見てみると、彼等はドミノゲームをやっていた。俺に気付くと、彼等は「まぁこっちに来いや」と手招きして俺を呼んでくれた。

注いでもらったラム酒を飲みながら彼等のゲームを見ていると、だんだんとルールが分かってきた。「やってみるか?」と言われ、仲間に入れてもらった。2人ペアでのチーム対抗戦だった。最初の勝負は俺のチームの負けだった。勝った2人は手を叩いて喜んでいる。俺のペアは「ちくしょう!」と叫ぶ。楽しそうに見えたが、勝負は真剣のようだ。

俺も次第に要領を掴み、3戦目にしてようやく勝つことができた。俺のペアは「ウォー!」と叫んで立ち上がり、俺達はハイタッチを交わして喜んだ。負けたペアは机を叩き、「もう1回!」と言う。そのまま俺は彼等とラム酒のボトルを1本空けるまでドミノゲームを楽しんだ。

翌朝、宿の主人が大きな島に行こうと誘ってきた。電話をするためにその島に行くのだと言う。二人でカヌーに乗ってその島に着いた。さすがに電話が通じているだけあって、俺が滞在している島よりずっと近代的だ。家の壁はセメントでできたものが多く、子供達のほとんどが服を着ている。

その島では何人かの白人の姿も見かけた。観光客も少なからず訪れるのだろう。現に、人々の俺を見る目もそれほど珍しいものを見る感じでもない。それでもやはり子供達は寄って来るのだが、俺の島の子供達とは明らかに違う。彼等は「ジャッキーチェン!」と言いながら俺に向かって拳法のポーズをしてくるのだ。きっとこの島にはテレビもあるのだろう。

写真俺の島に帰り、子供達と散歩をして俺が宿に戻ると、宿で働く若い男がカヌーでどこかに連れて行ってやると言ってきた。どうやらこれが“遠足”のようだ。どこへ行くのかと聞いても彼の話す言葉は理解できない。とりあえずカヌーに乗り込んだ。

いくつもの島を通り過ぎ、どこまで行くのだろうと思っていると、彼が「あれだ!」と言って指差した。そこには見事なヤシの木が生い茂り、綺麗なビーチに囲まれた、絵に書いたような美しい島があった。

無人島だった。俺を砂浜に降ろすと、男は「2時間後に迎えに来る」と言い残し、またカヌーで去っていった。島には俺1人残った。無人島で1人きり。。。

とりあえず着ているものを全て脱いだ。そして海に入る。なんという開放感!俺はそのまま島を泳いで回った。裸なのにも関わらず、背泳ぎもした。時には「ヒュー!!」と叫んだりもしてみた。泳ぎ疲れて砂浜に上がり、そのまま仰向けになる。何故か体の中からおかしさが込み上げてきて、大きな声に出して笑った。

写真帰りのカヌーでどんなに良い気分だったかを俺が興奮して話していると、突然彼が「○○がいるぞ!」と言った。彼の指す方向を見ると、いくつもの大きな背びれが動くのが見えた。イルカの群れだった。彼が海面をぱしゃぱしゃ叩くと、イルカ達はカヌーのすぐ横までやってきて、そのままカヌーに並んで泳ぎ始めた。彼等は代わる代わる波打つように大きな背中を浮かせて泳いでいた。

あっという間に3日間が過ぎた。これまで俺が生きてきた世界とは全く別の、まさに夢のような世界だったが、不思議と懐かしい場所のような気もした。これが人間の自然な姿のようにも思った。もし俺がこの島で生まれ、一生をこの島で過ごすとしたら、、、そんな人生も悪くはないのかもしれない。

飛行機の音が聞こえてきた。その音が、俺がこの島を離れる合図だった。宿の人達と別れの挨拶をしてカヌーに乗り込んだ。いつの間にかたくさんの人達が集まって来ていた。カヌーが岸を離れた。皆が手を振ってくれた。俺も手を振り返した。俺が遠ざかると、子供達は逆立ち相撲を始めた。俺は彼等の姿が小さく見えなくなるまでずっと島を眺めていた。

(写真上左:サンブラスの島々 上右:島の様子 中右:クナ族の子供 中左:宿のトイレ 下左:無人島 下右:イルカの群れ)