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キャプテンコージの世界一周旅日記

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最後の冒険【後編】

インド カルカッタ

地図宿の近くに露店の雑貨屋をやっているサトシというインド人がいた。本名はもちろん違うのだが、日本に行ったこともなければ学校で勉強したこともないというにも関わらず、驚くほど日本語が達者で、日本人旅行者達に対して本人がサトシと名乗っていたのだ。

何か欲しいものや行きたいところがあれば、サトシに聞けばなんでも教えてくれた。用はなくてもサトシの店の前を通るときは決まって立ち話をした。そんなときウメは、やはりサトシもインド人ということで、笑顔すら見せずに俺の横でただ突っ立っていただけだったのだが、俺が「地元の奴と仲良くなっておくと何かと良いことがあるぞ」と言うと、ウメもそれからサトシとよく話すようになった。

ある時ウメがサトシの店で買ったと言って、バンダナを4,5枚持ってきた。いくらだったか聞くと、1枚100ルピーと答えた。「バカ、そんなの1枚いいとこ20ルピーだぞ。いくらサトシとはいえちゃんと交渉しないと」と俺が言うと、「20ルピー?あぁんのやろぉー、俺を騙しやがってぇー!」とまた凄い形相で出て行こうとするので、「もう買っちゃったもんは仕方ないだろ。これから気を付けな」と言ってなだめた。

そして、ついに俺がカルカッタを去る日がやってきた。タイのバンコクに飛ぶのだ。

「お兄さんがいなくなったらぁ、ちょっと不安だけどぉ、この宿の周りにいるだけだったらぁ、なんとかやっていげそうですぅ。サトシもいるしー」

多少不安がりながらも、ウメは少し自信ありげにそう言っていた。確かにその通りかもしれないが、俺はまだなんとなくすっきりしない気分だった。結局ウメはインドという国やインド人を恐れ、嫌い、旅を楽しめないままに日本に帰ってしまうのだろうか。

俺達が宿のロビーで話していると、日本人が1人やって来た。旅慣れた感じの青年だった。明日カルカッタからダージリンに向かい、数日過ごしてまたカルカッタに戻ってくるということだった。これはチャンスだ!と思った。

「ウメ、後1週間もあるんだから、お前もダージリンまで行って来いよ!」
「ええぇ!?そんなの無理ですってぇ!ようやぐ無事に日本さ帰れると思ったのにぃ」

「こいつが一緒に付いて行っても迷惑じゃないですか?」
「いいですよ。一緒に行きましょうよ!」
「いんやー、とんでもねぇですよぉー。もっし何かあっでぇ、帰って来れなぐなったらぁ、飛行機にも乗れなくなっかもしんねぇしー」
「大丈夫だって!このお兄さんだってお前の飛行機の前の日には帰って来るって言ってるんだから、一緒に帰ってくれば大丈夫だよ」
「でも俺ぇ、切符の買い方も分かんねぇしぃ、どこで買えっかも分かんねぇしぃー」

俺は紙に駅と駅の中の切符売り場の地図を書き、青年にカルカッタ行きの切符を借りて、その2つをウメに手渡した。

「いいか、ここに行って、この切符と同じものをくれって言えば大丈夫だ」
「でもぉー、俺おっがねぇしぃー、、、」
「お前このまま日本に帰っていいのか?インドに自分探しの旅に来たんじゃないのか?騙されて、ぼられて、嫌な思いだけして日本に帰っていいのか?最後にいい旅をして来いよ!」
「いんやぁ、でもぉ、、、」

ウメはその地図と切符を持ったまま、下を向いて随分と長い間黙って考え込んでいた。そして、ゆっくりと顔を上げ、こう言った。

「よぉぉぉぉーっし、、、最後の冒険だぁぁー!」

顔は真っ赤で、体中がぷるぷると震えていた。その様子に俺ももう1人の青年も大笑いだったが、ウメにとってはもの凄い一大事であり、相当な勇気と気合いの要ることであった。

「よし決まった!じゃあ早速切符を買いに行こう!一緒に出ようぜ!」
「お兄さん、行ぎましょう!」

そのまま俺はバックパックを担ぎ、ウメと一緒に宿を出た。サトシに別れを告げ、馴染みとなったチャイ屋や焼きそば屋のおじさん、客待ちをしながらたむろしているリキシャのおじさん達にもさよならを言い、サダル・ストリートを歩いて大通りまで出た。

そこの角で俺は左に曲がり、地下鉄で空港へ向かう。ウメは右に曲がって駅の切符売り場を目指す。

「ウメ、しっかりな。楽しんで来いよ」
「お兄さん、俺ぇ、行って来ますぅ!!!」

実際その街を出るのは俺だったのだが、なんだか俺がウメを送り出しているような気分だった。そして俺達は固い握手をして別れた。少し歩いて振り返ると、ウメは力強い足取りでぐんぐんと歩いていた。


<編集後記>
この旅を終えて日本に帰った時、カルカッタの宿で一緒だったおじさんと偶然成田空港で再会した。俺が去った後のウメのことを尋ねた。

「あいつはね、行かなかったよ。やっぱり怖かったんだろうなー。あの後は毎日ずっとサトシにくっついていたよ・・・」

そして、必ず手紙を書くと言っていたウメからは、その後一度も手紙が届いたことはない。

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