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キャプテンコージの世界一周旅日記

ゴールデン・シティ【後編】

インド ジャイサイメール、ジョードプル

地図パクと3人の金さんと俺は、デリーから数日かけてジャイプル、ジョードプルへとやって来た。ジョードプルからジャイサイメールを目指してさらにバスで西に行くと、すぐに乾燥した砂漠地帯となった。満員のオンボロバスは砂漠の中をひた走る。こんなところでもし万が一バスが故障でもしたらどうなるんだろうと思っていると、バスが故障して動かなくなった。最悪だ。

乗客全員がバスから降り、灼熱の太陽の下で途方に暮れること数時間、俺達が来た方向から一台のバスが走ってきた。歓声が上がった。だがそのバスも満員だった。とりあえず乗客を詰め込めるだけ詰め込み、俺達を含めた残りは屋根の上に乗ることになった。そうして荷物と人を満載したバスは走り始めた。

ジャイサイメールは、砂漠の中にポツンと存在する巨大な城とその城下町で、通称ゴールデン・シティとも呼ばれている。街の全ての建物、丘、その丘の上に建つ城の全てが砂漠の土で作られており、夕陽を受けると金色に輝くからだ。そしてまさに俺達が遠く砂漠の中にジャイサイメールを見つけたとき、その城は黄金に輝いていたのだ!

写真街についた。俺達はまるでコントのように全身砂まみれで髪の毛は逆立っていた。2泊3日の砂漠ツアーを探して申し込んだ。ラクダを人数分、ガイド兼ラクダ使いを2人、御用聞きの少年1人、3日分の食料と水、ブランケット等全て込みで約1,500円のツアーだった。

次の日ガイドやラクダ達とジャイサイメールの街外れで合流した。そこで俺にあてがわれたのはダントツで大きいラトゥーというラクダだった。まず簡単な乗り方とラクダ言葉等を教えてもらい、荷物をラクダの背中に積んで出発した。

しばらくすると周りの全てが地平線になった。その中をただひたすらラクダに乗って進む。飯時になると、少し緑のあるところを探し、そこでラクダから降り、荷物も降ろし、大きな石を広い集めて釜戸を作り、火をおこしてチャイを作る。俺達がチャイを飲んでいる間にガイド達はチャパティとカレーを作る。食事が終わるとお皿やコップを砂で洗い、荷物を積んでまた出発する。その繰り返しだ。

夜は飯を食ったらもう何もすることがない。昼間は40度を越える砂漠も陽が沈めば一気に零度近くまで気温が下がるため、ブランケットに包まっているしかない。だが完全に太陽の明かりが消えたその瞬間から、夜空は信じられないような素晴らしい世界となる。砂漠には雲が全くないため、空の全てが星で埋め尽くされるのだ。

砂の上で仰向けに寝転がり、今にも降って来そうな星空を眺めていると、パクが話しかけてきた。

写真「コージ、愛ってなんだと思う?」
「何だよ、突然」
「俺は今まで誰とも付き合ったことがないんだ」
「まじで?」
「毎回告白してもフラレちゃうんだよ」
「パク、お前この旅で変わったんだろ?」
「どういうこと?」
「何でも自分で決められる男になったって言ってたじゃないか」
「ああ」
「じゃあもう大丈夫さ、次は必ずうまく行くよ」
「そうかな」
「そうさ!」

砂漠の夜、俺達の話し声の他に聞こえてくる音と言えば、ラクダ達の反芻する音だけだった。突然「うぉげっ」「ごぼごぼごぼ」という音が聞こえたかと思えば、今度は「くちゃくちゃくちゃ」と何かを噛む音がして、次に「ごくん」と飲み込む音。それが繰り返される。寒さで夜中によく目を覚ましてしまうのだが、その度に満天の星が目に飛び込んでくると共に、その音が聞こえてきた。一体奴等はいつ眠っているのだろう。

俺のラトゥーは体が大きいだけではなく、一際荒々しかった。走り方もスムーズではなく、3日間で俺のお尻の皮が擦り剥けてしまうほどだった。乗り降りの度にロデオのような状態にもなる。ガイドに「こいつはワイルドすぎないか?」と聞いてみると、「実はお前が最初の客なんだ。いろいろと教えてやってくれ」と言われた。俺は“行け(履き腹を蹴って「シューッ!」)”“走れ(喉の奥で「んーん!んーん!」)”“座れ(手綱を下げながら「シーシー」)”などの教わったラクダ言葉をラトゥーに教え込んだ。

写真ラトゥーは鼻に切り傷があり、そこが少し化膿していて、すぐにハエがたくさん集まってくる。そうすると「ブシュシュシュシューッ!」と鼻を鳴らして首を振るため、その度に俺は背中から転げ落ちそうになる。たまにラトゥーから降りて鼻に虫除けスプレーを吹きかけてやる。始めは狂ったように暴れるのだが、そのうち気持ちよさそうに「ふぅー」と言って落ち着く。そうしてだんだんとラトゥーは俺に馴れていった。

砂漠での厳しく楽しい3日間が終わり、俺達はジャイサイメールに帰ってきた。別れの時、ラトゥーはうるんだ瞳でずっと俺のことを見ていた。その後宿でシャワーを浴びてからレストランに行き、それぞれの今後の旅の計画を話した。予定通り俺は東へ行く。金さん達は南へ行くらしい。航空券を捨ててしまったパクもとことんインドを旅するつもりらしく、金さん達と一緒に南へ行くことにした。そういうわけで、その日が5人の最後の夜となった。

次の日、まずは皆でジョードプルに戻った。南へ下る韓国チームの列車はその晩にあったのだが、俺の列車は翌朝までなかった。彼等の出発まで随分と時間があったので、駅構内にあるドミトリーのベッドを予約した後、俺はパクと散歩に出た。次の日からの移動に備えて、朝の弱い俺は目覚まし時計を一つ買った。その時計屋のおじさんにパクが得意のおねだりをしてお揃いのキーホルダーを2つもらった。そしてその1つを俺にくれた。

「いつか俺達はきっとまた会える。その時はおじいちゃんになっているかもしれないけど、このキーホルダーを持っていればお互い分かるだろう」

駅に戻ってしばらくすると、ついにパク達の乗る列車がホームに入ってきた。発車まではまだ時間があったのだが、俺に見送られるのは辛いから今別れようとパクが言った。俺は金さん達と握手をして別れの挨拶を交わした。最後パクと握手をした時、涙が出てきた。もう堪えられなかった。お互い抱き合って声を出して泣いてしまった。俺は何度も何度も「ありがとう」とパクに言い続けた。

彼等と別れ、ドミトリーの部屋へと戻った。俺以外のベッドは全て空いていた。何も考えることができないままに、ぼーっとベッドに腰掛けていると、突然部屋の外が騒がしくなった。「入っちゃだめだ!」とか、「友達がどうのこうの」とか言い合っている。外に出ると、管理人のおじさんとパクが揉み合っていた。

パクは新聞紙の包みを俺に渡すと、「グッバイ!」と言って走り去った。俺が「何だよ!」と叫ぶと、パクは振り向いて「アーッシュトレーイ!」と叫んだ。以前デリーの宿で、宝物だと言って俺に見せた灰皿だった。そして奴は笑顔で大きく手を振り、ホームへと駆け戻って行った。

パク達が乗った列車がホームから出て行く音が聞こえてきた。俺は灰皿を手に持ったまま、ずっと涙を止めることができなかった。