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キャプテンコージの世界一周旅日記

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テロの後 ~生命の誕生~

地図コスタリカ サンホセ、トルトゥゲーロ

テロ翌日、俺はまず何度かニューヨークにいる友人達に連絡を取って安否を確かめようとしたのだが、案の定全く電話は繋がらなかった。次に航空会社に行って運行予定を確認するも、やはりこれも全く見込みなしとのことだった。

ネットカフェに行くと、日本の会社からメールが入っていた。海外にいる社員は安否を連絡し、可能な限り早く帰国するようにとのことだったので、俺はコスタリカで足止めを食らっている状況を説明したメールを送った。すぐに「ヨーロッパ経由の便があるからそれで帰ってくるように」という返事が返って来た。調べてみると、ロンドン経由の成田行きが見つかったのだが、なんと50万円以上もするものだった。会社の指示は無視することにした。

その時、飛行機の確認とネット以外にすることは何もなかった。気ばかりが焦るが、何もできない。だがサンホセ市内には、まるでそんな事件が起きているのが嘘のような穏やかな空気が流れていた。俺は自分だけ慌てているようで馬鹿らしくなり、パブに入ってビールを飲んだ。次の日も航空会社とネットカフェ、パブを何往復かして過ごし、そのまた次の日も同じように過ごした。

夜はジョンが豪華なレストランに連れて行ってくれた。基本的に欧米人のゲイはお洒落で美食家だ。さらに彼はこの国の水準からするとかなりリッチだった。彼の家でも至れり尽くせりのもてなしだった。いつまでも泊まっていていいとも言ってくれていた。ただ、彼には本当に申し訳ないのだが、ついついそれが善意からのことなのか、それとも何か目的があるからなのかを疑ってしまう。俺は意識的に女の子の話などをして(ジョンがゲイだということは知らないふりをしながら)、自分がストレートであることをアピールしていた。

事態は一向に変わらず、俺はいつ日本に帰れるか分からなかった。そこで俺は小旅行に出かけることにした。今回コスタリカはトランジットだけで帰る予定だったのだが、本当はこの国には行きたいところがたくさんあった。俺は中でも最も行きたいと思っていたトゥルゲーロ国立公園を訪れるツアーに参加することにした。

写真集合場所の広場にやってきたマイクロバスには、既に6,7人の旅行者とガイドが乗っていた。どうやら俺が加わってツアーのメンバーが揃ったらしい。ガイドが自己紹介を始めた。ドレッドへアの似合う黒人の女性だった。

サンホセの市街を離れると、あっという間に深い深い山の中となった。コスタリカは、その国土の4分の3を国立公園が占めており、それらはほぼ手付かずの状態で残っているジャングルだ。さらに、コスタリカ自体はわずか九州と四国を合わせた程度の大きさの国にも関わらず、地球上の全動物の5%、鳥類に至っては10%ほどの種類が生息しているらしい。「恐竜が現存するとしたらコスタリカだ」などとも言われているくらいだ。

バスの中からガイドが何か動物を見つける度に車を止め、俺達は外に出た。ジャングルはまさに動物の宝庫だった。さらには車を降りたついでに周りを散歩して、珍しい虫や鳥を見つけては教えてくれた。「そのカエルは強い毒を持っているから触っちゃダメよ」などと軽く言っては俺達をびびらせた。

写真いくつもの山を越え、バスを降りると、そこにはボート乗り場があった。ここからボートに乗って川を下り、トルトゥゲーロに行くのだと言う。それはいかにもジャングルと言った風景で、川の水は褐色に濁り、岸には背の高い木々が生え、「アーッ、ギャーッ、クヮーッ!」と様々な動物の奇声が響き渡る。

ここでもガイドは色々な生き物を発見した。「木の上にサルがいる!」「あそこに綺麗な鳥が飛んでいる!」「川面にワニの目が出ている!」言われてすぐにそっちを見てもすぐには分からない。ボートを寄せてよく見てみると、水と同じような色のワニの目と鼻が水の上に出ている、ということがよくあった。

最も圧巻だったのは、カメレオンを見つけたときだった。カメレオンとはそもそも敵に見つからないように、体の色や模様までをも周囲に同化させることができる生き物だ。だがガイドの指す方向にボートがより、よーく、本当によーく言われた木の幹を眺めていると、幹の模様に同化したカメレオンの姿がそこにはあった。

写真夕方過ぎに宿へ到着した。皆で食事をした後、ウミガメの産卵を見に行こうと言う事になった。まさにトルトゥゲーロはスペイン語で「ウミガメの来る場所」という意味であり、夏場は多くのウミガメが産卵のためにやって来ることでも有名なところだ。

宿を出てジャングルを越えると、カリブ海を臨む砂浜に出た。その日は天気が悪く、月も星も見えなかった。途中から雨も降ってきた。俺達は真っ暗な中をガイドの後に付いて歩いた。すぐ近くの人のシルエットだけがかろうじて分かるというくらいの闇だ。そんな中をライトも付けずに、ほとんど声も出さずに動く。産卵時のウミガメは非常に神経質だから、他の動物の気配を感じると産卵をしないらしい。細心の注意が必要だった。

突然ガイドが低く押し殺した声で「ストップ!」と言った。皆立ち止まる。その場で伏せろと言われたので皆伏せる。動かない。波の音と雨の音しか聞こえない。しばらく雨に打たれるがままにじっとしていると、ふと、かすかに、「ざっ、ざざっ」という音が聞こえてきた。砂の擦れる音、砂浜を何かが移動している音だ。その音が次第に大きくなってきた。暗くて見えないが、確かに何かが近付いて来ている!

暗闇の中でずっと目を凝らして海の方を見ていると、それまでうっすらと見えていた波打ち際の白波の一部に、黒い影が重なった。その影の部分が次第に大きくなって来る。そしてついには、俺のすぐ前に大きなドーム型の闇があった。ウミガメの甲羅だった。

俺のまさに目と鼻の先、息遣いを感じるほどの距離で、ウミガメは止まった。必死に何かを探っているような気配がウミガメから発せられている。気づかれたか。だがもし気付かれなかったとしたらどうなる?ウミガメの通り道を俺が塞いでいるような格好になってしまっているのだ。その時は、、、俺はウミガメに踏まれる!!

写真しばらく睨み合いのような状態が続いた後、ウミガメはUターンして海へと帰って行った。やはり気づかれたようだった。また俺達は再びウミガメを探して歩き始めた。そして、再びガイドが俺達を止めた。今度も全く何も見えないが、近くに産卵中のウミガメがいると言う。俺達は静かにそのウミガメの後ろに回りこんでから、少しずつ這って近づいていった。

突然ガイドがライトを点けた。すると目の前には俺達に背を向けた格好のウミガメがいて、そのお尻のすぐ下には大きな窪みがあった。ウミガメは一度産卵を始めてからはもう開き直り、ちょっとやそっとでは動じなくなるらしい。俺達はさらに這って近付き、窪みを覗き込んだ。そこには、4,50個ほどのピンポン玉のような白い卵があった。

さらに俺達の見ている前で、ウミガメは懸命に、ゆっくりと、だが順調に卵を一つずつ産み落としていく。卵を産むとき、彼女は力んで荒い息を吐く。それは苦しそうにも、幸せそうにも見える。きっとその両方なのだろう。言葉にならない光景だった。命が次々とこの世に誕生している瞬間だった。

(写真上:ナマケモノ 写真下右:産卵を終えたウミガメが海へと帰った跡 せっかく産み落とした卵の上には砂を掛けてカモフラージュしたのに・・・ 写真下左:トルトゥゲーロ村の交番 右奥にある建物の扉にはカンヌキ、壁には"JAIL"と書いてある )

写真

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