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キャプテンコージの世界一周旅日記

テロ当日

地図エクアドル - パナマ - コスタリカ サンホセ

その日俺はまだ暗いうちにカルロス達のアパートを出て、キトの空港へと向かった。必ず混むと聞いていたので、予約しておいたパナマ・シティ行きの飛行機が出発する3時間以上前に空港に着くようにしたのだった。

空港のチェックインカウンターはたくさんの人と荷物でごった返していた。2時間近く並んでようやくボーディング・パスを手にし、出国手続も終えた。俺は出発ロビーのソファに座り、搭乗時間を待っていた。すると突然、ロビーがざわめき出した。どうしたのかと思ったら、皆テレビの画面を食い入るように見ている。俺も近くにあったテレビに目をやった。

そこには、NYのマンハッタンらしき高層ビル群が映っていた。つい数週間前に俺がこの目で見ていた光景だ。そしてその中でも最も高いビルに飛行機が激突する映像が映し出された。何かの映画の予告だろうか。スペイン語のアナウンスが入っているのだが、俺にはさっぱり分からない。が、映画の予告の割にはしつこく何度も同じシーンを流している。どこかおかしい。その時、画面の下に英語のテロップが入った。

「ニューヨークにてテロが発生・・・ 貿易センタービルに旅客機が・・・ 死傷者は少なくとも・・・」

え?テロ?まさか、、、これが現実だと言うのか???画面はニュース番組のスタジオに変わり、キャスターが怖い顔をして話している。すると再びマンハッタンの映像に切り替わり、今度はもう一つのビルに飛行機が突っ込んだ。さらに、人々が走って逃げる姿や、救助の光景なども映し出された。

しばらくして、空港内にアナウンスが入った。トラブル発生により、全ての便は遅れ、今後の運行予定も全く分からないとのことだった。空港は今やざわめきどころではなく、混乱と言えるような状態になった。

今、とんでもないことが起こっている。それは分かる。だが、とてもそれが現実とは思えない。例え現実だとしても、今俺がどうするべきかも分からない。俺はただその場で動かずに、ずっとテレビを見ることしかできなかった。

数時間後、いくつかの便が出発するというアナウンスが入った。パナマ・シティ行きもその中には入っていた。こんな状況で本当に飛行機を飛ばしてもいいものかは分からなかったが、実際に飛ぶのなら俺はそれに乗るしかない。簡単な搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。ほどなくして飛行機は飛び立ち、俺は窓の下に広がるアンデスの山々を見下ろしていた。

パナマ・シティに到着した。ここでコスタリカの首都、サンホセ行きの飛行機に乗り換える。だがキトからの便が大幅に遅れたせいで、俺の乗る予定だった飛行機は既に出発した後だった。俺は次の便のキャンセル待ちの手続をして、再びロビーで長い時間待つことになった。ここでもずっとスペイン語のよく分からないニュースを見て待ち時間を過ごした。

ようやく搭乗時間となり、荷物を持って搭乗口の列に並んだ。俺の番となったところで、係員が「こっちへ来い」と言って俺をその列から外した。俺は搭乗カウンターの隣にある、長テーブルを並べただけの特設カウンターのようなところに連れて行かれた。そして係員が3人掛かりで俺の荷物を調べ始めた。

係員達は俺のバックパックの中身を全てそのテーブルに出し、丹念に調べていた。まだ洗濯していない下着まで広げられた。次に、今回俺がオタバロで買った人の身長ほどもあるディジュリドゥ(シロアリが中身を食べて空洞になった木の外側にペイントを施した、オーストラリアン・アボリジニの楽器)を両端から覗き込んで調べ始めた。列に並んでいる人達がその様子を何かいかがわしいものを見るような目つきで見ていた。

もちろんディジュリドゥの中に爆弾なんて入っているはずもなく、再び列に戻されたのだが、結局俺が見ていた限りでは俺だけが荷物のチェックを受けていた。テロの犯人についてのニュースが流れ始めていたその時に、乗客の中で唯一アジア系の俺が警戒の対象になったのだろうか。それとも単に俺が怪しい男に見えたのか。どちらにしても、俺は嫌な気分のまま飛行機に乗り込んだ。

サンホセ空港に到着したのは真夜中近くだった。迷った挙句、俺は手帳に書いてあった番号に電話をかけた。それは何かあったら電話するようにとサンドラがくれた、彼女の古い友人のジョンの番号だった。ジョンはすぐに車で迎えに来てくれた。そのまま彼の家に行き、熱いシャワーを浴びさせてもらった。朝から張り詰めていた緊張が一気に解けた。

その後英語のニュースを見て、ようやく事件の状況を掴むことができた。というよりも、やはりこれが現実に起こったことなのだと認識することができた。この事件はテロによるものだということ。かなりの数の死傷者が出ているということ。アメリカだけでなく世界中の空の便に影響が出ており、明日から全航空会社の運行の見込みが立っていないこと。

この事件は今後どういう展開を見せるのか。ニューヨークにいる友人達は無事だろうか。いつになったら俺は日本に帰れるのだろうか。ジョンはゲイだと聞いているが、彼にお世話になり続けていても大丈夫なのだろうか。。。その時様々な不安が俺の頭の中を巡っていた。