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キャプテンコージの世界一周旅日記

バリの弟

インドネシア バリ

地図二度目の慰安旅行はインドネシアのバリ島だった。俺がバリに行きたかったために、自ら幹事を志願して強引に決めてしまったのだった。旅行前の数週間は、仕事そっちのけでバリの下調べや旅行会社とのやり取りに勤しんでいた。

1日ずらして先発組みと後発組に分かれそれぞれ3泊4日、俺だけフルで4泊5日の日程だった。これも幹事の特権だ。全員が揃う中日にパーティを入れた以外は、基本的に全て自由行動にした。

昼間は各々ビーチやショッピングを楽しみ、夜は決まって若いメンバーが集まって一軒のローカルな食堂に通っていた。うまくて安い上に店の人達の感じもよく、皆ですっかり仲良くなってしまったからだった。

その店によく遊びに来ていたアリという少年がいた。彼は日本語を勉強中で、よく俺達のところに来てはつたない日本語で話しかけて来た。俺達は明るくユーモアのあるアリをよくかわいがっていた。

最終日の前日、家に遊びに来ないかとアリに誘われた。他の連中は誰も行かないということだったので、俺1人で行くことにした。アリの運転するバイクの後に乗り、たくさんの人や車やバイクが行き交う道をかっ飛ばす。だんだんと人通りが少なく、道は細く暗くなり、迷路のようなエリアに入ってからアリは「ここだよ」と言ってバイクを停めた。

写真暗闇の中に粗末な門があり、その両脇には低い塀が続いていた。こんな風に外と仕切られているなんて珍しい。門の中に入ると中央の広場を囲むような形で、小さな部屋が並ぶ長屋が建っていた。少し、異様な空気を感じた。

バリは島民のほとんどをヒンドゥー教徒が占める島なのだが、わずかながらイスラム教徒も存在する。アリはその1人であり、その塀に囲まれた土地はイスラム教徒の居住地だったのだ。

「アリはここで両親と暮らしてるの?」
「いや、俺には親がいないんだ。ここにいる奴らは皆そうだよ」

確かにそこに大人の姿はなかった。アリと同い年くらいの少年達が俺のことを遠巻きに眺め、もっと幼い子供達が広場で遊んでいた。ここでは子供達が共同生活をしていて、アリのように働くことのできる少年が、幼い子供達の面倒を見ているのだった。

アリが少年達のところに行って何かを話している。俺のことを説明しているのだろう。そのうちの1人が俺の近くにやって来て、全く子供らしさのない、警戒心に満ちた鋭い目で俺を見つめた。俺が笑顔で「ハーイ」と言うと、そいつは俺を無視してどこかへ行ってしまった。

アリの部屋に入りろうそくを点けた瞬間、俺は驚いた。なんとコンクリートの壁には日本語の落書きや張り紙がたくさんあったのだ。格好良い文字を写したり、なかなか覚えられない言葉を書いているのだという。ふと、入り口の真正面に、「立入禁止」と書かれた紙が貼ってあるのに気付いた。

写真「おい、これどういう意味だか知ってるの?」
「知らない。何?」
「“この部屋に入るな”っていう意味だぞ」
「本当???ごめん、深い意味はないんだよ!」

アリは慌ててその紙をはがした。

次の日、最終日も俺は昼からビーチでアリと待ち合わせ、一緒に遊んでいた。アリはまた家に来いと言うのだが、その日の夜俺はバリを発たなければならない。だが、「めったに飲めない凄いアラックがあるよ~」という言葉に負け、ちょっとだけ遊びに行くことにした。

家に着くとアリは早速アラックを出してきた。どこで手に入れたのかを聞いても答えない。アラックとはインドネシアの蒸留酒で、日本の焼酎よりもアルコール度数が強く、臭みのあるものが多い。だが出てきたものは口当たりが良く、共同の調理場でアリが料理してくれたキノコを肴にくいくい飲んでしまった。

二人ともいい感じに酔っ払った頃、突然アリが俺の名前を聞いてきた。アリとはなんとなく皆で仲良くなったために、初めのうちに自己紹介をしたかもしれないが、それをアリが忘れていても無理はない。「コージだよ」と答えると、なかなか発音しづらいらしく、書いてくれと言って極太の真っ赤なマジックを渡してきた。「どこに書く?」と聞くと、「壁に書いて」と言った。

人の家の壁に、しかもマジックで自分の名前を書くなんて気が引けたので、端っこの方に小さく書こうとすると、「ここに大きく書いて」と、まだ何の落書きもない綺麗な部分を指して言った。「まじでいいの?」「いいよ」「このくらい?」「もっと大きく」「このくらい?」「もっともっと!」「おりゃー!!!」

結局俺は壁を埋め尽くすほどの大きな字で書いた。

「いいのかよ、こんなことして」
「これで絶対忘れないよ」
「よーし、お前は俺のベストフレンドだな!」
「へぇ?違うよ」

え???あ、、そ、そうか・・・。ちょいと遊びに来た観光客が、少し仲良くなったからって親友は言い過ぎた。アリやここの少年達には、他の人間がなかなか入れない壁があるのかもしれない。この場所と同じように。。。

「違うよ。俺達は、兄弟さ!」
「じゃあ、、、飲むか!弟!!」
「うん!!」

嬉しくてたまらなかった。一人っ子の俺にとって、初めてできた兄弟だった。俺達はさらにアラックを飲み交わした。しこたま飲んだ。頭がぐるぐる回り出した。酔った。完璧に酔っ払った・・。もうダメだ・・・。んーー・・・。ふと時計を見ると、6時45分。んーー・・・ん?あれ?あれれ?

「ぐあっ!バスの時間だぁぁぁー!!!」

7時に空港行きのバスがホテルに迎えに来る予定だった。しかも幹事の俺が皆をバスに乗せなければならない。その中にはもちろん上司もいる。やばい!まじでやばい!すぐアリにバイクでホテルまで飛ばしてもらった。俺は人やバイクをすり抜けながら突っ走るアリの背中に必死にしがみついていた。

(写真上は会社のメンバーと食堂の人達、下はアリと後輩の山ちゃん)