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キャプテンコージの世界一周旅日記

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ラスト・バケーション

オーストラリア ケアンズ

地図卒業と就職を間近に控えていた大学5年の冬、俺は学生最後の旅と英語の勉強も兼ねてオーストラリアのケアンズに飛んだ。

初めの何日かはバックパッカーズに泊まり、そこで知り合った仲間達と遊んでいた。そのうちの1人、カナダ人のエイドリアンがある日ボロボロの中古車を買い、その車で一緒に旅をしないかと誘ってきた。俺は迷わずOKし、次の日俺達はケアンズを出た。

車の旅は楽しかったのだが、とにかくその車はひどいものだった。なんとワイパーが動かない。雨が降ると前が見えない。俺が助手席の窓から身を乗り出し、フロントガラスをタオルで拭きながら走ったこともあった。なぜその時に停まらなかったのかは今でも思い出せないのだが。

アーリービーチで仕事を見つけたエイドリアンと別れ、俺は先へ進もうかケアンズへ戻ろうか迷った。そもそも今回はあまり旅をするつもりはない。英語圏の国で“生活”がしてみたかっただけだ。結局俺はホワイトヘブンビーチやマグネティック島などに寄った後、またケアンズに戻ってきた。

写真スーパーの掲示板で見つけたルームシェアの張り紙の家を何件か回り、1つの家に決めた。敷地の中に2つの家、プール、ビリヤード場があり、地元のオージーが7,8人、ワーキングホリデーの日本人が5,6人、韓国人が数人という大所帯だった。

俺は週に1日だけ街へ出て、美術館でボランティア(疲れたお客さんの話し相手をするというだけの仕事)をする以外は、全くのフリーだった。家にはたくさんの人がいたので、毎日誰かしらは休みで俺の相手をしてくれた。もっぱら庭のプールで泳ぎ、ビリヤードやチェスをし、酒を飲んで過ごした。よく海や山に行ったり、スカッシュをしたり、クラブに行ったりもした。週末になれば近所の人達が集まってパーティをした。

クイーンズランド州はよくサイクロン(台風)に襲われる。大きなサイクロンが来ると仕事も休みになるので、家でパーティを楽しむ。そしてある時、何十年に一度という巨大なサイクロンがやってきた。街は3日間全く機能しなかった。交通機関も動かなければ、電気すら点かない。俺達はろうそくを灯し、買い溜めしておいた酒を飲みまくり、サイクロンパーティを楽しんだ。ちょうどその頃、俺の大学では卒業式が行われていた。

そんな生活が2ヶ月半も続き、ついに日本へ帰る時が来た。最後の夜はシェアメイト達だけではなく、近所の連中も集まって盛大にパーティを開いてくれた。

パーティの途中、俺は日本人の相棒ユウジとペアを組み、家のオーナーのジョンと何かにつけて俺にライバル意識を燃やすネヴィルのペアとサッカーゲーム(レバーを回転させてボールを蹴る)で戦った。ジョンはそのゲームのプロだ。俺達は完封で負けてしまった。クイーンズランドでは試合やゲームなどで完封負けをした場合、男はアソコを、女はおっぱいを出さなければならないというとんでもないルールがある。

家中の皆が集まって、サッカーテーブルと俺達を取り囲み、ヒューヒューと口笛が鳴った。カメラまで持ってくる奴もいた。逃げることは許されなかった。俺とユウジが大好きなマリンダにだけその場を外してもらい、皆の掛け声と共に俺達は約束のモノをサッカーテーブルの上に投げ出した。

写真ユウジとビリヤード場に行くと、マリンダがやってきた。彼女と話すときはもちろん英語だが、俺とユウジの会話は主に日本語になる。俺達はよく日本語で関係ない話をしているフリをしながら、実はマリンダのことを「今日もかわいいね」とか「たまらねーなー」などと言ったりもしていた。(当時は血気盛んな年頃であり、実際はもっと卑猥なことなどもガンガン言っていたが)

ユウジが日本語で何か面白いことを言った。俺が爆笑しているとその隣でマリンダがくすっと笑った。え?まさか・・・。

「マリンダ、ひょっとして、、、日本語分かるの?」
「話すことはできないけど、人の言う事は理解できるわ」
「えー!じゃあいつも俺達の話してることを分かってたの???」
「イエース!!!」

俺とユウジは2人で頭を抱えた。

夜が明けてきた。部屋に戻ると、ベッドの上に封筒が置かれてあった。開くと中には皆からの寄せ書きが入っていた。それを読んでいたら涙が溢れてきた。そこへネヴィルが入ってきた。

「コージ、お前オーストラリアが好きか」
「ああ、好きだよ」
「じゃあずっとここにいればいい」
「そんなわけにはいかないよ」
「どうしてだよ!」
「・・・・」

俺はそれには答えられなかった。どうしてだろう。なぜここでの楽しい生活を捨てて、日本に帰らなければならないのだろう。日本に帰ったらすぐに入社式を迎え、俺は社会人になる。毎日スーツを着て、満員電車で会社に通い、必死に働くことになるだろう。だが、それは俺の望んでいることか?果たして社会は楽しいのか?とてもここほど楽しいとは思えない。じゃあなぜ?将来のためか?将来って、一体何なんだ?それは今よりも大切なものなのか???

俺は、バックパックに荷物を詰めながら、まるで俺の自由と青春も一緒にしまっているような気持ちになっていた。。。

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