株式会社waja株式会社waja

キャプテンコージの世界一周旅日記  >  旅のリスク

キャプテンコージの世界一周旅日記

(なし)   |   目次に戻る   |   さらば友よ »

旅のリスク

突然テレビがよく見慣れた光景を映し出した。ヨルダンの首都、アンマンのクリフホテルのロビーと、その窓から見た街の様子だった。イラクで誘拐され、先日遺体となって発見された、香田さんに関連するニュースだった。

テレビが映し出すロビーは、毎日のように従業員や他の旅人達とバックギャモンに夢中になっていた場所だった。香田さんが泊まっていたと報道された部屋のベッドは、まさに俺が寝ていたベッドだった。

中東を旅する者同士の情報交換の場として有名なこのクリフホテルは、俺にとって特に思い出深い宿の一つだ。何より思い出すのは、従業員のサーマルだ。とことんいい奴だった。朝から晩まで旅人達の世話をよく焼いていた。何が欲しいと言えばそれを最も安く売っている店を教えてくれたり、どこに行きたいと言えばバス停の場所や番号、乗り換えの場所などを細かく地図まで書いてくれた。

日本語の「ドウイタシマシテ」という言葉が大好きで、それを言いたいがために俺達が「ありがとう」と言うようなことをウザイくらいにやってくれるような奴だった。時にはヨルダン料理を俺達に振舞ってくれることもあった。

旅人達の安全もとても気にかけていた。俺がペトラに着いた日の夜、サーマルが薦めてくれた宿にわざわざ電話をかけてきて、無事に着いたことを確認してきたほどだ。

そこの旅人達が皆そうするように、きっと香田さんもサーマルにバクダッド行きのバスのことを聞いたのだろう。チケットの手配までしてもらったのかもしれない。ここ数日、多くの報道記者がクリフホテルに押しかけ、サーマルも取材を受けると同時に、あの悲しい結末を知ったことだろう。あいつのことだからバスの情報を与えた自分の責任まで感じているかもしれない。そんなサーマルのことを思うと俺は心が痛んだ。

現在、多くの日本人旅行者がイスラエルのパレスチナ人自治区や、アフガニスタン、イラクを訪れている。イラクに関しては今年の8月からビザ制度が復活したらしいが、それまでは政府が機能していなかったために、国境でアメリカ軍がパスポートを簡単にチェックするだけでノースタンプで入国できたし、今でも陸路でのビザなし入国は難しくないと言う。外務省から退避勧告が出ているが、それは何の強制力もなく、現に驚くほど多くの日本人旅行者がイラクに入国しているのだ。

何故、今この状況の中、そのようなところにわざわざ行くのか。多くの、特に若い旅行者は、「今イラクが熱いから」と言う。もちろん中にはNGO活動に協力したいとか、ボランティアをやりたいとか、起こっていることを世の中に伝えたいとか、確たる目的を持って行っている人もいる。だが、そのような人は決して多いとは言えないだろう。「同じ顔だけどボランティアを頑張っているのが韓国人、何もせずに旅行しているのが日本人」とイラクの人が言っていたという話も聞いたことがある。

香田さんがどんな目的を持ってイラクに行ったのかをここで詮索するつもりもないし、そのことについて非難するつもりもない。現に俺も去年の夏、中東を旅しているとき、できることならばイスラエルのパレスチナ人自治区やイラクに行ってみたいと思っていた。

だがアンマンでいろいろな情報を集め、実際に行ってきた人の話を聞き、少なからずリスクを感じた。さらに、そのことを日本の両親や彼女に相談したとき、猛反対を受けた。俺はイスラエルとイラク行きを諦めた。

あまりにリスクを恐れては旅を楽しむことはできないし、安くあげることもできない。実際俺も多少のリスクよりも好奇心や経済性を優先する。雪山にも登るし、治安が悪いと言われている地域で夜に一人歩きをしたりもする。同じ市内でも一般的に治安が悪いところに安宿や安食堂が集まっているからそういう場所に泊まる。そういうところに行った方が庶民の生活に触れたり、同じような旅行者に出会えることが多いという魅力もあるからだ。

だが、もちろんそれにも程度がある。外務省の危険情報はあまり実情に即していない場合もあるので、結局は旅行者個人が判断することになると思うのだが、その線引きは非常に重要だ。そこの判断というのは肌で感じることであって、言葉で説明するのは難しいのだが、俺の基準を敢えて言うならば、それは現地の人々の日常がそこにあるかどうかだ。

現地の人も立ち寄らないようなところには俺も行かないし、普通に生活しているところには俺も行く。それでも治安が悪いところはいくらでもあるが、そういうところで多い犯罪というのは、旅行者の金を狙ったものがほとんどで、こちらが気を付けていればまず危ないことはない。

もっと言うなら、俺が旅で最も気を付けているのは、“死なない”ということだ。死のリスクがあるところには行かないし、死のリスクがあることはしない。戦闘地域には決して行かないし、警察の力が及ばないほど治安の悪いところにも行かないし、雪山やジャングル、砂漠では絶対にガイドを付ける。これが最低限だろう。

この感覚が鈍っている旅行者はとても多い。「俺はこんなところにも行ってきた」「俺はこんなこともした」という武勇伝を集めることを冒険と履き違え、これこそが本当の旅だと言わんばかりの人が多いのだ。

だが、死んでしまったら元も子もない。お金を取られるリスクや怪我をするリスクと、死んでしまうリスクというのは比較にならない。命は、どんなものにも換えられない。

もし、危険な地域に入ってしまったのなら、多少ぼったくられていると分かっていても、タクシーに乗ってしまおう。ホテルに泊まってしまおう。長く旅をしていると、日本にいるときには考えられないほど出費に対して神経質になってしまうものだが、常に最も神経質にならなければならないのは、自分の命なのだ。

現在旅をしながらこのメルマガを読んでいる人、これから旅に出ようという人には、是非、是非、自分の命だけは何よりも大切にして欲しい。

今回のような事件が、決して二度と繰り返されないことを願う。

(なし)   |   目次に戻る   |   さらば友よ »