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キャプテンコージの世界一周旅日記

地球の果てを歩く【後編】

チリ パタゴニア 

地図歩き始めて10分もすると、道は登りとなった。とたんに口数が少なくなる。そしてその登りは2時間も続いた。しょっぱなから俺達はグロッキー気味だった。登りの連続が終わると今度は谷あいの道へと出た。ここはアップダウンの連続だ。谷の風は強く、あっという間に汗が冷える。パタゴニアは“風の大地”とも呼ばれ、偏西風の影響で非常に強い風がいつも吹いているのだ。時には本当に谷底へ吹き飛ばされそうな程強い風が吹く。

だが景色は実に素晴らしい。谷底には川が流れ、その上流には白い雪を頂いた山々がずらーーーっと連なっている。谷の反対側の崖からはいくつもの滝が流れ落ちている。そして山側には、角度によってはトレスの頂上が見え隠れする。空は綺麗に晴れ渡っていた。

5時間程歩き、トレス・キャンプ場に着いた。ここで1日目のキャンプをする。距離はわずか10kmほどだったのだが、アップダウンの繰り返しで疲れ果てていた。だが、晴れているうちにトレスを間近で見ておこうと、俺達はテントを張った後さらにそこからトレス・ミラドールへ向かった。高度差500mを2kmで登る急斜面だ。後半は大きな岩をよじ登りながら進む。そして最後の岩を越えた時、急に視界が開けた。目の前には3つの巨大なトレスがそびえ立ち、その前にエメラルドグリーンの湖が広がっていた。

写真2日目は早朝6時にキャンプ場を出て、再びミラドールへ向かう。真っ暗な中でのロック・クライミングは前日以上にハードだった。ヘッドライトで足元を照らしながらひたすら登る。そしてミラドールに着いた。3つのトレスがうっすらと見える。空が少し明るくなってきた。朝陽は山に隠れて見えないが、東側の空では朝焼けが始まっている。次第にその朝焼けがこっちに広がってくる。俺の頭上の雲も赤く染まった。さらに俺を追い越し、じわじわとトレスの方へと延びて行く。

そして、ついに、トレスの東側の崖が帯状に赤く染まった。これだ。俺が見たかったのはまさにこれなんだ!その息を飲むようなライトアップはほんの1,2分で終わり、白い朝がやって来た。今日も快晴だ。

キャンプ場へ戻った俺達は朝食を取ってからパッキングをして、前日来た道を戻る。アップダウンの道が終わった辺りで来た道と分かれ、なだらかな草原を歩く。時折牛の群れを通り過ぎる。しばらくすると湖沿いの道に出た。石灰か何かの影響だろうか、薄緑がかかった乳白色の大きな湖だった。のどかなトレッキングだった。

夕方前、ロス・クエルノス・キャンプ場に着いた。トレス・キャンプ場を出てから20km弱を7時間、ほとんど平地のトレッキングだったのだが、これだけの間15kgもの荷物を担いで歩いただけに、肩がかなり痛んだ。そのキャンプ場には綺麗なログハウスがあって、熱いシャワーも出るとのことだったのだが、帰りのバス代しか持ってきていない俺達は摂氏0度の中、今日も外にテントを張った。

写真3日目のスタートは10時過ぎになってしまった。前日軽く捻っただけだと思っていたジェラルドの足首が腫れ上がってしまい、動けなかったのだ。ようやく少し温まって歩けるようになったものの、テープで足首を固定し、恐る恐る歩くためにペースは遅くなる。6kmを3時間かけてイタリアーノ・キャンプ場まで歩いた。

当初の予定ではここにテントを張ってから7km先のミラドールまで行くつもりだったのだが、暗くなってからの下りは捻挫の足には厳しい。ジェラルドはとても申し訳なさそうに、「コージ1人で行ってくれ」と言っている。その台詞、確かコトパクシの山小屋でも言っていたような。。。

結局ミラドールまでは行かず、キャンプ場の周りでゆっくりすることにした。ここの景色も絶景だった。東にはクエルノ山の赤や黄色、茶、白などのカラフルな山肌が見える。西には雪に覆われたクンブレ山の3つの頂と、そこから伸びる氷河が見える。突然山頂近くの巨大な積雪が、もの凄い轟音と共に氷河へと崩れ落ちた。恐らく幅2-300m、落差1km以上の雪崩だっただろう。雪煙はしばらくの間収まらなかった。

パタゴニアはまだ夏の終わりだが、日が沈むと急激に冷え込む。寒さに弱いジェラルドと俺は、一度テントを張って中に入るともう外には出られない。料理もテントから腕だけ出してやる。飯の後の楽しみと言ったら音楽と酒だけだ。この大自然の中、小さなテントの中に大きな男が2人寝袋に包まり、ステレオをがんがん鳴らし、べろんべろんになるまで飲んでいる。傍から見たらちょっとやばい光景かもしれないが、気分は最高だった。

写真唯一わずらわしいのはネズミだ。こっちの食料をしつこく狙ってくる。テントに穴を開けられたら大変なので、食料はビニール袋に入れてテント本体の外側、カバーの内側に置く。するとネズミが集まってくる。ガサッ、ゴソッ、ペリペリッ、ビニールをかじる音が聞こえると、テントを叩いて追い払う。そのうち敵も音だけではびびらなくなり、テントのドアを開けないと逃げなくなる。開けても逃げず、ライトを当てても逃げなくなると、腕を伸ばして直接ビニール袋を叩く。そのうちこっちは眠ってしまい、朝になってしっかりパンやチーズを食われていることに気付くのだ。

最終日の4日目はペロエ湖を渡るボートに乗り、対岸からバスに乗って帰るだけだ。昼過ぎにボート乗り場に着くと、いきなり雨が降ってきた。俺達のトレッキング中は全く降ることはなかった雨が。そしてこの雨はずっと止むことはなかった。

今回のトレッキングは、俺のライフスタイルを少し変えてしまうかもしれない。大自然の中を歩き、眠ることがこんなにも楽しく気持ちいいものだとは知らなかった。もっと色々なところでトレッキングをしてみたい。ちょうど俺がそんなことを考えていた時、ジェラルドが言った。

「俺、世界中をトレッキングしてみたいな」
「今俺も同じことを考えていたよ。じゃあ次はネパールで会おうか」
「よし、そうしよう」

そう約束をして俺達は別れた。
・・・と日記が終われば格好いいかもしれないが、俺達はまだまだ当分一緒に旅をする。今の俺の目標は、帰国の日が迫っているジェラルドに帰りの航空券を捨てさせることだ。