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キャプテンコージの世界一周旅日記

旅姿六人衆【後編】

ブラジル サンパウロ

地図

俺達はよくサンパウロ中心部の歓楽街に通った。歓楽街と言っても俺達が通っていたのは、飲み屋が並ぶ中にポツリとある、中国系の家族が営んでいる小さな肉まん屋だった。その店の看板娘にユウジが恋をしたのだ。

写真その娘はとても愛想が悪く、常連となった俺達に対してさえ、決してニコリともしなかった。いつも仏頂面で外を眺めている。だがユウジはその横顔を眺めているだけで幸せだった。そして周りの俺達はそんなユウジをけしかけることが楽しかった。

ある日、いつまで経っても何も話しかけようとしないユウジに焦れて、ナオトがその娘に名前を聞いた。仏頂面のまま「マリア」と答えた。素敵な名前だ。その名前を聞いただけでユウジはさらに幸せそうだ。さらにナオトはユウジの気持ちをマリアに伝えようとする。必死に「俺のアミーゴがお前のことを好きなんだ」と訴えるのだが、なかなかマリアには伝わらない。やはりニコリともしてくれない。そこでターゲットを店の奥にいるマリアのお母さんに変えた。

「俺のアミーゴがあんたの娘のことを好きなんだ」とジェスチャー交じりの熱弁にようやくお母さんは理解し、笑いながらマリアに説明した。マリアは「あー」と大きく納得した様子で、ユウジの方を見た。照れて目を合わせることもできないユウジを見て、マリアが初めて笑った。少しはにかんだ、かわいらしい笑顔だった。

写真その笑顔を見て、俺達のテンションは最高潮となった。ユウジをどつきまわし、マリアには「こんな男どう?ずっとマリアのこと大好きだったんだぞ!彼氏はいるの?こいつと付き合ってくれ!」と攻撃しまくり、お母さんには「娘さんを俺達のアミーゴに下さい」とまでお願いした。そこでマリアが言った。

「ありがとう。でも私、結婚してるのよ。子供もいるの」
「・・・・」

この時、ユウジの小さな恋が終わった。

俺達はその夜、何件かはしごをして大いに酔っ払い、最後にいつものカラオケパブに行った。セイジが“メロディ”を歌った。

   泣かないでマリア いつかまた逢える
   誰かれ恋すりゃ 悲しみに濡れ
   And my heart went zoom with you...

それを聞いているユウジの目から、涙がこぼれ落ちた。ステージから戻ったセイジに「ありがとう、なんだかすっきりしたよ」と言っていた。その後ユウジは仲良しになったホステスと一緒に大騒ぎしていた。この男はもうこの街で一つ傷を癒された。

ナオトが“希望の轍”を歌った。いつか俺がナオトに「俺のテーマソングなんだ」と話したことがあった。

   夢を乗せて走る車道 明日への旅
   通り過ぎる街の色 思い出の日々

ステージから俺を指差している。そうなんだ。今が動く時なんだ。俺がそんなことを考えていると、突然カズオさんが、「確かブラジルにボニート(“美しい”の意味)という名前の街があったよね。ボニートにボニータ(“美しい女性”の意味)でも探しに行こうかなー」と言い出した。

もちろん皆も分かっていた。次の場所へと進まなければならないことを。

全員で“旅姿六人衆”を歌った。

   毎日違う顔に出会う 街から街へと
   かみしめてる間もないほどに
   喜びや夢ばかりじゃない つらい思いさえ
   一人きりじゃできぬことさ ここにいるのも
   お前が目の前にいるならいい
   素敵な今宵を分け合えりゃ
   また逢えるまではこの時を
   忘れないでいて

胸が熱くなって溢れそうになる涙を必死でこらえながら歌った。タクミは思いっきり泣いていた。皆、同じ思いだった。

写真そして次の日、カズオさんはボニートへ、そして他の皆も、それぞれ次の場所へ向かってサンパウロを発つことにした。ユウジは、とりあえず今回は日本へ帰ることにしたらしい。金を貯め、移住の計画を練って、また出直してくると言う。

皆が旅立つ時、後数日だけ残ることになったユウジが言った。

「サンパウロで待ってるよ」
「いつになる?」
「3年後かな」
「よし、じゃあまた3年後、ここに集合するか」
「いいねぇ」

こうして俺達は3年後の今日、またこのペンション荒木で再会することを誓って別れた。