株式会社waja株式会社waja

キャプテンコージの世界一周旅日記  >  白い妖精

キャプテンコージの世界一周旅日記

白い妖精

アルゼンチン パタゴニア

地図プエルト・ナタレスから国境を越えてアルゼンチンのカラファテにやってきた。ここはペリト・モレノ国立公園への拠点となる街だ。

写真早速ジェラルドと俺はカラファテに着いた翌日、モレノ氷河行きの早朝のバスに乗った。バスが低い山を越えようとしていた時、朝陽が昇った。この時期のパタゴニアではほぼ毎日、信じられないほど美しい朝焼けを見ることができる。この日の朝焼けも素晴らしかった。しばらくバスを止めてもらい、外に出て刻々と変化する空の色を眺めていた。

2時間程でバスはペリト・モレノ国立公園に入り、さらに走るとモレノ氷河が見えてきた。その時氷河の上には雨雲が広がっていた。暗い空の下に見える幅5km奥行き35kmもの巨大な氷の固まりは、とてつもなく強い力を秘めて、飛び出す時をじっと静かに待っている生き物のように見えた。

バスを降りて氷河正面の岩場に向かって歩いているとき、雨が止んで雲の隙間から太陽の光が射し込んできた。その光を受けて氷河はキラキラと輝き、青に色を変えた。

写真正面まで来てみると、氷河は想像以上に大きいものだった。高いところでは100mにも及ぶらしい。そして氷河が崩れて氷の塊が水の中に落ちる音がまた凄い。ベキベキッ、ガッ、スゥー、、、、バッシャーンンン!!!シャーン!シャーン!というような音が頻繁に聞こえてくる。とにかくとんでもない音と迫力なのである。

突然、ミシッ!ヴァキィッ!という一際大きい音がしたのでそっちを見てみると、最前列の氷河の下約3分の1、幅10m程の氷が崩れ落ちているところだった。それはまるでスローモーションのようにゆっくりと崩れていった。水をはじく爆音と共に崩れ落ちた高さ以上に水しぶきが立ち、浮かんでいる周りの氷を大きく揺らす波を作った。

数ヶ月前、16年ぶりの記録的な落氷があった。それは俺が見てびびっていたものとはケタ違いのものだった。高さ60~100m、幅400mに渡る氷河が数日に渡って次々に崩れ落ちたという、とんでもないスケールのものだった。氷河を見る展望台のところまで水しぶきがかかっていたと言う。

次の日からは再びトレッキングにチャレンジだ。俺達は早朝のバスに乗り、チャルテンという村に行った。ここからフィッツ・ロイの麓を目指す。フィッツ・ロイとは“白い妖精”とも言われる山で、その険しく美しい姿は多くのクライマー達の憧れでもある。俺達素人にはとても登れるような山ではないが、麓までならなんとか行けそうだ。すぐ近くから白い妖精を拝んでみたい。

チャルテンに着いた時は激しい雨が降っていて、管理事務所の人も今日は山を見ることはできないだろうと言っていたのだが、俺達がコーヒーを飲んでいるうちに空は見る見る晴れてきた。「俺は天気運が強いんだよ」「いや、俺の運が強いのさ」と言い合いながらジェラルドと俺はトレッキングを始めた。

同じパタゴニアでありながら、ここの景色はパイネのそれとは全く異なっていた。まぶしい程の緑一色だったパイネに対し、ここでは既に紅葉が盛りを迎えていた。パタゴニアの植物の多くは、強い風と厳しい寒さに耐えられるよう、地面にへばり付くようにして生えている。それらの葉が赤や黄色に染まっている。足元に広がるその景色を眺めながら歩いていると、まるで紅葉の絨毯の上にいるような気分になる。

トレッキングをしている人も多かった。時にはもう老人と言ってもいいほどの年配のグループなどもいる。皆良い顔をして歩いている。すれ違う時には笑顔で挨拶を交わす。海外で旅行者同士が言葉を交わすときはもっぱら英語なのだが、何故かここで交わす挨拶はスペイン語だ。「オラッ!」「オラッ!」スペイン語圏なのだから当たり前なのだが、なんだか新鮮な気分だった。

写真そして途中からは、頂上付近に雲をまとったフィッツロイがずっと見えていた。トレッキングコースはいくつにも分かれていたが、とにかく俺達はフィッツロイが見える方向にひたすら進んだ。

その夜はフィッツロイをすぐ目の前に見上げる丘の下、リオ・ブランコ・キャンプ場にテントを張った。いつもと同じ日課をこなし、寝袋の中で眠った。だがこの日は1つだけ不備があった。バックパックに入れておいたチーズを、ビニール袋に移すのを忘れてしまっていたのだ。夜中にネズミの音で目を覚まし、テントのドアを開けて音のする方にライトを向けると、俺のバックパックの横でネズミが何かをむしゃむしゃ食べながらこっちを見ている。「何か用?」みたいな感じできょとんと立ったまま俺を見ていやがる。そのネズミの足元には黒い糸屑のようなものが散らばっていた。よく見ると、俺のバックパックのポケットに大きな穴が空いていた。

次の朝は6時にテントを出て、丘を登った。まだ辺りは真っ暗だ。ライトで足元を照らしながら登る。しばらくすると、雪が舞い始めた。オーストラリアのパース育ちのジェラルドにとっては、生まれて初めての雪だ。1時間程かけて丘を登りきると、正面に小さな湖があり、その奥には憧れのフィッツロイがまだ薄暗い空の中にそびえ立っていた。

写真大きな満足感があった。もの凄く寒かったが、しばらくその場で俺達は余韻に浸り、日の出を見てから丘を下りた。

テントをたたんでキャンプ場を出た俺達は、しばらく歩いて見晴らしのいい所まで来た時に振り返って再びフィッツロイを眺めた。何度見ても本当に美しい。俺達は今朝あそこまで登って、、、、あれ?あれあれ?違うじゃん!俺達が見ていた山、フィッツロイじゃないじゃん!!!

そう、俺達がフィッツロイだと思って見ていた山は、フィッツロイ将軍を取り囲んでいる歩兵みたいな奴らのうちの1つで、肝心のフィッツロイ将軍はその奥に歩兵達とは比較にならない偉大さを持って、ドッカーンと構えていたのだ。俺達が丘を登った時は、霧が濃く出ていたために全く見えていなかったのだった。

「どうも意外に小さいなとは思ってたんだよね」
「実は俺もそう思っていたんだ。これ恥ずかしくて人に言えないな」
「でも俺日記に書かなきゃ」
「それ、かなり恥ずかしいな」
「うん、恥ずかしい」
・・・・。

以上、パタゴニアでのトレッキングでした!