株式会社waja株式会社waja

キャプテンコージの世界一周旅日記  >  コンドルは飛んでいく

キャプテンコージの世界一周旅日記

コンドルは飛んでいく

ペルー アレキパ

地図ナスカから南へバスで約12時間、アレキパはコロニアルなムードが漂う、とてもペルーとは思えないほど美しい街だった。俺はアレキパで数日ゆっくり過ごした後、コンドルが飛ぶ姿を見ることができるというカニョン・デル・コルカへの1泊2日のツアーに参加した。

朝9時に出発の予定だったのだが、なんと5時半に宿の兄ちゃんに叩き起こされた。「ツアーのバスが迎えに来てるぞ!」そんなはずはないだろと思ったのだが、その日はバス会社のストの真っ最中で、6時から道路が封鎖されるためにこんな時間の出発になったとのことだった。俺は慌てて荷物をまとめてバスに乗り込んだ。

写真アレキパを発ってしばらくすると、辺りは標高4000mを越える高地となった。5,6000m級のアンデスの山々の白い頂きが近くに迫っている。道のすぐ側ではリャマの群れが草を食べている。たまに小さな集落も現れる。まるで遺跡のような崩れかけた家には実際に人が生活している様子が感じられる。それにしても野菜も育たないこの高地で、人々はどんな生活をしているのだろう。

昼過ぎにその日の宿泊地であるチバイという村に着いた。予定よりも随分早く着いたため、近くの温泉にツアーに参加していた皆で行った。すぐ脇を流れる川のおかげで、そこだけは緑豊かで別世界のような素晴らしい景色だった。そんな景色を眺めながらの温泉、しかも日本を発って以来7ヶ月ぶりの湯船だ。幸せな気分を味わった。

白人だらけのツアー客の中に、一人だけペルー人の女の子がいた。(そういう俺も白人ではないが)英語が話せないからか、ただ単にそうしたくないからなのか、その子は皆の輪に入ろうともせず、他の皆もその子に話しかけようともせず、いつも一人ぼっちだった。俺はずっと話しかけるきっかけを探していた。俺が温泉から出るとその子はガイドの兄ちゃんと二人で話していたので、そこに加わってみた。

彼女はリマの大学に通う学生で、今回初めて国内を一人で旅しているのだと言う。こっちで旅をしている地元の子というのは珍しい。彼女は俺のことを“チノ”(チャイニーズの意味)と呼ぶ。俺やガイドが「チノじゃなくてハポネスだよ」と言っても、数分後にはまたチノに戻ってしまう。「こういう目の人は皆チノって呼ぶのよ」と、両手で両目尻を横に引っ張って言った。実際こっちの人たちは、中国と日本と韓国の区別がよく分かっていない。人の区別だけではなく、国の区別も曖昧なのだ。日本を中国の一部だと思っている人も多い。東アジアを“中国”というエリアだと思っている人もいる。

突然彼女がプールサイド(温泉と言っても見かけはプール)で水着姿で日焼けをしている白人達を指差して、「グリンゴーの女の子達には興味ないの?」と言ってきた。白人のことはグリンゴーと呼ぶのだ。俺にとってはお互いの旅行談ばかり話す彼らより地元の人との会話の方がよっぽど興味がある。それを言うと、ガイドの兄ちゃんが「アミーゴは白人の女よりペルー人の女の方が好きってことだな?」と言ってきた。いやいや、そういうつもりで言ったわけではないのだが、それを聞いて照れている彼女を見たら思わず俺も照れてしまった。

その夜のレストランでは、フォルクローレのバンドとダンサーが入っていた。盛り上がってくると、男のダンサーが女の客の、女のダンサーが男の客の手を取ってフロアに引っ張って行き、一緒に踊り始めた。その日の客はノリが良かったのか、さらに盛り上がってくると客のほとんどがフロアに出てきて、いつの間にか輪になって皆で手を繋いでぐるぐる回りながら踊っていた。そのうち調子に乗った客達、というか俺達はそのままレストランの外に出て、道端でぐるぐる踊った。バンドも俺達を追いかけて来て、道で演奏していた。そんな俺達を村の住人達が取り囲んで見物していた。

写真次の日も早朝6時にチバイを発ってカニョン・デル・コルカに向かった。コンドルが狩りに出るのは朝だけなので、それに間に合うように早く出発したのだ。コンドルが見やすいというミラドール(展望台)には8時頃着いた。

カニョン・デル・コルカはグランド・キャニオンよりも深い、落差約3000mの大渓谷で、圧倒的な景色が広がっている。ミラドールから東側にはトレッキングコースがあり、皆思い思いの場所でその絶景を堪能しながらコンドルを待っていた。

写真俺も初めは東側を歩きながら待っていたのだが、なかなかコンドルは現れてくれない。30分程してからミラドールに戻ってみた。そしてしばらく空を眺めていると、、、現れた!西側の崖の陰から現れたコンドルは、ミラドールの上空で迂回してまた元来た崖に消えて行った。ほんの数十秒だけだったが、その優雅に飛ぶ姿に俺は心を奪われた。もう一度見たい。もっと近くで見たい。

コンドルが現れて起こった歓声に気づき、東側のトレッキングコースを歩いていた人達が慌ててミラドールに向かって戻ってきていた。俺はそっとミラドールを離れ、西側の立ち入り禁止になっているエリアに入った。見つからないように死角になっている所を通って崖の方へ降りていった。崖の一番先まで来て、祈りながらコンドルを待つ。もう一度だけ現れてくれ!

10分20分と経ち、バスが出る時間が近付いてきた。時計を見て、後1分だけ待とうと決めたそのすぐ後、、、願いが通じた。再び西側の陰から現れたコンドルは、ゆっくりと俺のいる方へ向かってきて、まさに俺のすぐ頭上を飛んでいった。全く音のない深い谷を、やはり全く音を立てず、大きな翼を広げたまま飛ぶその姿は、威厳さえ感じさせるものだった。

バスに戻った俺はもちろん、デジカメで撮った誰よりも大きいコンドルの写真を皆に見せて自慢した。